お前はやっぱり駄目だ」 「な、何がだよ! 黙れ!」 「そんなナイフをしおりちゃんに突き付けて、愛だの恋だの好きだの……よく言えたね。 「おいおい、そんなに怖がるなよ。 ほら、僕の手には武器なんてないよ? 身体能力だって君たちに大きく劣るし、しおりちゃんが人質になっている以上、ヘタな行動はできない」 「な……ぁ……く、来るな……!」 「さて、それで君はどうしてこんなことに手を貸しているのかな? そこのリーダー君に逆らうと怖いから? それともお金で買収された? それとも友情? あ、しおりちゃんが好きだからとか?」 「ぁ……くっ……! そ、そんなの……ダチだからに、決まってんだろ……!」 「へぇ……ん?」 男子の言葉に、桔音はまた口端を吊り上げる。
12もう一歩。
」 だが、ここは体育倉庫。
それを幸運と思って今は元の世界への帰り道を探しているんだけど……ちょっとおかしい。
「ほら、このお金をあげるよ」 「ッ……や、やめ……やめろ……」 桔音は、それを男子の手に優しく握らせる。
とはいっても、僕は真面目で、健全で、優秀で、風紀の乱れのない模範生徒だから、君みたいにあからさまに社会不適合者に立ち向かうけど、そのナイフ……あと一センチでも動かしてみろ……」 「あ、ああ……あああ、あああああ! 「逃げられちゃった。
「まぁ、男に付きっきりで看病とか、嫌だけどね」 そう言って、今までの空気が噓のようにパッと一歩離れる桔音。
逃げた先は壁が待っている。
だがその手は震え、ガチガチと歯が鳴っている。
」 主犯の男子は桔音を近寄らせないようにしおりを抱き寄せると、腰に差していたらしいナイフを取り出し、しおりの首に突き付けた。 男子の学ランのポケットから白い封筒が見えたからだ。
唯一の出入り口である扉側には、桔音がいる。
まぁ、友情は尊いものだもんね!」 そう言うと、桔音はくるっと回り、今度は主犯の男子を見る。
逃げる以前に、行き止まりだ。
そしてふらふらと視線を男子の腰元へと注いだ。 「友達、ね……君の友情は、どうやらお金で買えるわけだ」 そう言うと、桔音はポケットから自分の財布を取り出した。 「それで? 君はどうなの?」 「ヒッ……! 男子は壁に背中を付けて、ずるずると床に尻をついた。
8あはは、と笑って桔音はそれを後方へと放り投げた。
でも、僕は死んでしまった。
澱 よどみなく、澱んでいる。
なのに何故こんなにも、怖いのか。
「……っ……て、テメェ……! こいつがどうなっても良いのかよ! なんでなんでなんでなんでなんで )」 「あのさぁ」 「ヒッ……」 「君がどんな覚悟で……どんな気持ちでこんな行動に出たのか知らないけどさ……正直不愉快なんだよね、僕面倒事は嫌いなんだ。 「君はどうかな? 僕を殺してしおりちゃんを三人で手に入れたとして、そこのリーダー君が満足するようにしおりちゃんとの時間をくれると思う? 女を手に入れる 為 ために邪魔な僕を排除しようとする奴だぜ? そんな小さい器の男が、折角手に入れた女を他の男と分け合おうとするかなぁ?」 「ッ……あ……!」 「どうしたの? 顔色悪いみたいだけど大丈夫? 心配だなぁ、保健室に行く? 今なら僕が優しく声を掛けながら一日中付きっきりで看病してあげるけど」 見上げられる男子は、言葉にならない 掠 かすれた声を漏らす。
桔音はそれを見てぴたりと足を止めた。
)」 状況はけして動いていない。
桔音はそれをスルッと取ると、中身を出す。
一応膝をついた様子の男子を一瞥したものの、最早行動する気力はないらしく、 項 うな垂 だれるばかりだ。 身体中が嫌な汗に包まれていた。 鼻と鼻がくっつくほどの距離、薄ら笑いを浮かべながら男子の瞳に自身を映す。
1桔音はそれを見送りながらお金を拾い、男子の持っていた三万円も含め、八枚の一万円札を自身の財布に入れた。 それも女の子の親友。
「うわあああああああああああああああ!!!!」 男子は耐えられなくなって握らされたお金を投げ捨てると、桔音を突き飛ばし、転がるように体育倉庫から逃げ出していった。
大して動いてもいないのに、呼吸を忘れていたかのように乱れた呼吸で空気を吸い込む。
主犯の男子は激しく動揺していた。