「お鍋で、ご飯に鳥の笹身やら牛肉の赤身やらを混ぜて、ことこと煮てあげるんだけど、野菜不足になると困るからお大根や人参なんかも入れて、サニーレタス? 青物なんかもたっぷり入れてあげるわよ」 「人間よりいいもの食べてるわね」 「そうよぉ、こっちなんてコッペパン1つ」 「コッペパンって、最近見る? 給食とかで出たヤツでしょ?」 「裏通りの家族経営みたいなパン屋さんで売ってるわよ」 甘じょっぱい煮物の匂いが漂いはじめた頃、勝縁寺の住職が縁側に現れ、「この度は大変でございましたね。 あの黒い衣服を身につけている男性のことを思うとき、このシゲちゃんの存在が浮かぶのだ。 そして、主人公たちの存在が全く目に入っていない、気づこうともしない、道行く人々の、他愛もない会話が淡々と描写されているのも印象深い。
8ホームレスと呼ばれる人びとのなかに、好き好んでその場所にたどり着いた人が、どれだけいるのだろう。 小説部門の受賞者はフォークナー、フィリップ・ロスなどそうそうたる顔ぶれだ。
全米に拡がった格差や人種差別と,それに抗う動きの中にあって、柳美里のこの作品が与えた影響は少なくないと考えます。
個人の記憶にしては随分と細かい。
その一方で、「天皇」の行幸啓(ぎょうこうけい)にかこつけて、主人公はホームレスとして排除される。
この読み方が、正しくてもそうでなくとも構わない。 (日本国憲法第14条) すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 38]では,物語の結末も書いています。
2考えてはいけないことが、つねにちらつく。 柳美里さんの『JR上野駅公園口』には、拾った新聞や雑誌や文庫を好んで読む、「シゲちゃん」というホームレスの男性が登場する。
でも、日本にいれば、その『裏』が容易に見えるはずです。
居ない人の思い出の重みを、語ることで軽くするのは嫌だった。
海外の評価に一喜一憂するのはあまり建設的ではないが、私たちの読書の誘い水にすることは有益だろう。
北海道・東北• 日本語話者でも理解できない台詞あった。 パレードは終わる。
賞を取ったり、ベストセラーリスト入りするだけではない。 ふと窓の向こうへ目をやると、空は曇天に覆われていた。
だからこそ、読者それぞれの読み方ができる作品だともいえる。
きっと私も「ホームレスだ、というような驚きが一瞬掠めた」ような顔をして、彼とすれ違うのだろう。
日常のふとした瞬間に、つねに「この先、生きていけるのだろうか」という不安がこみ上げてくる。
2006年当時の過去現在未来を2014年に描いたこの小説は、その先にある、もはやほとんどの人が「希望のレンズを通して」2020年東京オリンピックを見ていない、コロナ禍にある2021年の日本の現在をも照らす。 しかし、それぞれの人にも楽しい時期、輝く時期は確実にあったと思う。
だからこそ、『JR上野駅公園口』は、居場所を失くした人の、心の拠り所になり得る物語なのだ。 それも、半ば信仰に近いものである。
コヤの中から即席ラーメンを鍋で煮ている匂いがしてくる。
日中は書店員。
もし私が何もかもをあきらめてしまったなら、救いの手を伸ばしてくれた人たちに申し訳がたたない。
「映画芸術」などに寄稿。 残念ながら公園口は数度しか利用したことがありませんが、銀座線からJR に乗り換えようと中央改札に向かう途中に複数人のホームレスをよく見かけていました。
上野恩賜公園には、記念館や博物館が多いため、皇族の人々がよくお見えになる。 それは、をや皇族が訪れる時に事前にホームレスを排除する「山狩り」という特別清掃の実情を描くことで、我が国の制に潜む問題点を指摘していると思ったからである。
…著者が造形した主人公はナイーブで頑なな性格の持ち主なのだと、私は再認識した。
1年ほど前,当ブログで柳美里の小説『 JR上野駅公園口』を取り上げました(その時の記事[No. いつも居ない人のことばかりを想う人生だった。
かろうじて今はアパートの一室に公費で暮らしているが、いずれはこの部屋を出て行かなければならない。
物語の最後には、3.11のに呑み込まれる故郷が描かれている。
行幸啓(ぎょうこうけい)、パレードにこじつけて。 東京オリンピックを通して戦後史を描いた大河ドラマ『いだてん』(NHK)や、2020年東京オリンピックの開催に向かう日本社会において、見て見ないふりをされ「存在しない」ことにされた人々に焦点を当てたドラマ『MIU404』(TBS)よりも前に描かれた『JR上野駅公園口』という傑作を、今こそ読むべきだ。
非正規雇用のままで貯金もなく収入はわずかだったため、服や身の回りの物はほとんど買えなかったが、本だけは細々と買い揃えていた。
憲法1条は,終戦の際に昭和天皇が「国体護持」つまり天皇制の維持に拘泥したことを背景にし,その結果「象徴天皇制」となったのは自明です。
この物語について思いをはせるとき、初めは戸惑いと哀しみが訪れ、やがてさまざまなものが渦巻いていく。
酒のつまみにも、メザシって最高だしね」 「ししゃもししゃも」 「あ、ししゃもかぁ. このホームレスの女性の行く末について思うとき、私もいつその場所に転げ落ちていくかわからないのだと強く感じて、心臓を冷たい手で掴まれたような気持ちに襲われる。 物語が進むごとに、彼の過去や、昭和から平成にかけての激動の時代が描かれていく。 161)」という本文中の記述通り、過去現在未来が渾然一体となった一人の男の人生と、日本の姿を描く。
(中略) 讃美歌と説教が終わると、食事が配られる。 特に、主人公の天皇に対する「信仰」という点について深く掘り下げたいのだが、その前に前提情報をまとめておきたい。
憲法14条(法の下の平等)と憲法1条(天皇)との間に「齟齬」が生じているのではないか,という問題は,ブログ筆者にとっても様々なことを考える契機となっています。
なら「どのようなジャンル、どんなストーリーの本であれば、英訳出版の可能性が高いのか?」とよく聞かれるのだが、長年英語圏のベストセラーをウォッチしてきた私にも確たる答えはない。
作家なのに今まで彼女の小説を私はなぜだか読んだことがなかった。
それは2020年に開催を予定していた東京オリンピックにも当てはまることで、本書を通して次第に現代日本の光と闇が見えてきます。 当初は着る服すらろくになかったものの、さまざまな人に助けられ、仮住まいとはいえ住める部屋も見つかり、今もこうして生きている。
13生活拠点は上野公園。
ただ、慣れることができなかっただけだ。
「天皇」への「信仰」~パレードの記憶 作品を読んでいると、主人公の「天皇」に対する「信仰」というものを認めざるを得ない。
(追記) ここ何日か更新されなかった柳美里氏(福島県南相馬市在住)のブログですが,さきほど見たら,全国図書賞受賞の感想も含めて更新されていました。
よほど視力が弱いのか、いつも手にした文庫に顔を近づけては黙々と本を読んでいた。 【目次】• こうして、 パレードの記憶と 家族との記憶とを比較してみると、前者の方がかなり詳しい。
自ら好んで、人生を転げ降りていく人間はいない。
そして同時に、この物語が一人でも多くの読者に読まれることで、居場所のない人びとへの救いの道が、確固たるものになることを願ってやまない。
33 太字は水石 長い引用になってしまった。
一方、人生のハイライトは、常に「天皇」という光によって照らされていた。