あいだのおじいさん。 小川未明 雪の上のおじいさん

まんが日本昔ばなし〜データベース〜

あいだのおじいさん

かさじぞう 〜おじいさんとおばあさん〜 ある年の大晦日の晩。 その日はとても寒く、朝から雪が降っていました。 しかし大晦日ということもあり、町はお正月のための買い物をする人たちで賑わっています。 おじいさん : 「 アフロのカツラはいらんかえ〜、アフロのカツラはいらんかえ〜 」 おじいさんは声をはりあげて笠を売っていました。 畑仕事ができない冬のあいだはこうやって自分で編んだアフロのカツラを町で売っているのです。 ところが最近町にドンキホーテとかいう大型のディスカウントショップができたため、おじいさんのアフロのかつらはめっきり売れません。 数日前から毎朝6時に町へ来て売り歩いていましたが、結局一日に2つ売れればいいほうで、まだ5つのカツラが売れ残っています。 おじいさん : 「はて、こまったものだ・・・」 しかし時間は流れます。 夕刻、人々は家族が待つ家へ帰っていき、日がとっぷりと暮れる頃には町にはしんしんと降り積もる雪とおじいさんがいるだけになりました。 おじいさん : 「仕方ない、帰るとするか・・・」 おじいさんは売れ残った5つのカツラを背負って村へと足を向けました。 ***** おじいさんの家は町から10マイル、約16キロ離れたところ村はずれにありました。 帰り道でのこと。 おじいさん : 「おや、こんなところにお地蔵さんが6人も・・・」 いつも通っている道だったのですが、そのとき初めて気付きました。 お地蔵さんは半分くらい雪で埋まっていました。 おじいさん : 「かわいそうに・・・。 あ、そうじゃ!」 おじいさんは一体ずつていねいにお地蔵さんにかかっている雪をはらいました。 そして売れ残ったアフロのカツラをかぶせていきました。 おじいさん : 「ありゃ、一つ足らん」 少し思案したあとで、おじいさんは、ぽん、と手を打って自分がほっかむりしていた手ぬぐいを最後のお地蔵さんにかけてあげました。 おじいさん : 「風邪で飛ばされたりせんようにしっかり結んどかんとな」 おじいさんは手ぬぐいをお地蔵さんのあごの下でしっかりと結びました。 そして家にやっとたどり着いたおじいさん。 奥から出てきたおばあさんは雪まみれになっているおじいさんを見て驚いた顔で言いました。 おばあさん : 「あらあら手ぬぐいはどうしたんですか、おじいさん」 おじいさんは笑顔で手を振り、いやいや実はね、と事の顛末を説明しました。 外ではしんしんと雪が降っています。 きっと今年一番の、そして来年一番の大雪になりそうな感じでした。 囲炉裏に薪をくべながら、 おじいさん : 「・・・ということだったんじゃ。 思わずかわいそうになってしまってな」 それまでずっと黙って聞いていたおばあさんが、やおら口を開きました。 おばあさん : 「 おまえバカか? 」 口調は落ち着いていましたが、目は怒りで真っ赤に染まっています。 おばあさん : 「確かにカッコイイがな。 雪に埋まりそうになってるお地蔵さんを助けるなんて美談に違いない。 ご近所に言うたらみんなホメてくれそうやがな。 けどな、アタシはどうなるねん? あんたがこの10年間調子に乗って借金して遊んだおかげで、ふくれあがった借金は何十兆円にもなるんや。 年金、保険、借用証書、エトセトラエトセトラ。 今の収入で返済する気やったらあと300年くらいかかるんやで? それとも何か?あんたが死んだあとでアタシが払うんか? そんで挙句には、せっかくアタシが作ったアフロのカツラもあげてもうたんか。 おまえはやっぱりバカか? アタシが言いたいんは、お地蔵さんにいいことをするな、というんちゃうねん。 ウチの家計のことも考えて、もっと他にするべきことがあるやろ、もっと他にいい方法があるやろ?ということや。 」 おばあさんが一気にまくしたてたのをおじいさんは黙って聞いていましたが、やがておもむろに立ち上がると、 おじいさん : 「ワシが一番エライんや。 ワシのやることに口を出すな。 第一、そういう見栄がなけりゃ村でもいい顔ができんやないか」 といって、 近くにあった猟銃でおばあさんを射殺しました。 あたりはしんと静まり返っていて、雪に降り積もり音さえ聞こえません。 そこに、遠くのほうからずん、ずん、ずん、という音が小さく、そしてだんだん大きく聞こえてきました。 ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン 玄関を強く叩く音に目を覚ましたおじいさんは、こんな時間に誰だろう、と思いながら玄関を開けました。 果たして、そこには見覚えのあるお地蔵さんが独り立っていました。 アフロのカツラをかぶったお地蔵さんが1人。 お地蔵さん : 「ちょっと話があるさかい、上がらせてもらうで」 お地蔵さんは、おばあさんの射殺体をちら、と見てから、それを横にどけて囲炉裏の前に座りました。 お地蔵さん : 「まあ、とりあえず、あのあとにウチら兄弟に何が起きたんかを説明させてもらうわ・・・」 お地蔵さんは語り始めました。

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小川未明 夏とおじいさん

あいだのおじいさん

ある 街 ( まち )に、 気 ( き )むずかしいおじいさんが 住 ( す )んでいました。 まったく、 独 ( ひと )りぽっちでおりましたけれど、 欲深 ( よくふか )なものですから、 金 ( かね )をためることばかり 考 ( かんが )えていて、さびしいということなど 知 ( し )りませんでした。 「おじいさんは、おひとりで、おさびしくありませんか?」と、 独 ( ひと )り 者 ( もの )のおじいさんの 身 ( み )の 上 ( うえ )を 思 ( おも )って、なぐさめるものがあると、 「 仕事 ( しごと )にいそがしいから、そんなことは 考 ( かんが )えませんよ。 」と、おじいさんは、さびしいとか、さびしくないとかいうのは、 閑人 ( ひまじん )のいうことだとばかりに 返事 ( へんじ )をしました。 「それは、お 元気 ( げんき )で、なによりけっこうなことです。 」と、たずねた 人 ( ひと )は、 金 ( かね )がもうかれば、さびしくないものとみえる、さすがに、 金持 ( かねも )ちはちがったものだと 思 ( おも )いました。 おじいさんは、 雇 ( やと )い 人 ( にん )を 手足 ( てあし )のごとく 使 ( つか )いました。 雇 ( やと )い 人 ( にん )たちは、おじいさんの 気 ( き )むずかしやを 知 ( し )っていますから、せっせといいつけどおり 働 ( はたら )いたのです。 そして、 自分 ( じぶん )の 思 ( おも )ったように 物事 ( ものごと )がうまくゆけば、にこにことして、おじいさんは、きげんがよかったけれど、うまくゆかないときには、 「おまえは、 気 ( き )がつかん、ばかだから。 」といって、がみがみしかったのであります。 雇 ( やと )い 人 ( にん )は、たまりかねて、 「あんなわからずやには、 罰 ( ばち )があたればいい。 」と、 思 ( おも )っていました。 ところが、おじいさんはリューマチの 気味 ( きみ )で、 夏 ( なつ )のはじめごろから、 手足 ( てあし )がよくきかなくなりました。 「とうとう、 神 ( かみ )さまが、 罰 ( ばち )をおあてなされたのだ。 これからは、 私 ( わたし )どもにもやさしくしてくださるだろう。 」と、 雇 ( やと )い 人 ( にん )たちは、いったのであります。 ところが、その 反対 ( はんたい )で、 体 ( からだ )こそよく 自由 ( じゆう )はきかなかったが、ますます 口 ( くち )やかましくなって、それに 自分 ( じぶん )が 不自由 ( ふじゆう )で、 思 ( おも )うようにならぬところから、かんしゃくを 起 ( お )こして、 使 ( つか )っているものに、 小言 ( こごと )をいったのです。 それでも、みんなは、「 病人 ( びょうにん )だから、だまっておれ。 」と、 我慢 ( がまん )をしていました。 日 ( ひ )にまし、あつくなると、はえや 蚊 ( か )が、だんだん 多 ( おお )く 出 ( で )てきました。 はえは 遠慮 ( えんりょ )なく、おじいさんのはげた 頭 ( あたま )の 上 ( うえ )にとまりました。 「この 畜生 ( ちくしょう )め。 」といって、おじいさんは、うちわを 頭 ( あたま )の 上 ( うえ )にやって、はえをたたこうとしました。 はえは、すばしこく 逃 ( に )げて、また、おじいさんがじっとしていると、 頭 ( あたま )の 上 ( うえ )にきてとまりました。 「ふといやつだ、おれをからかっているな。 」と、おじいさんは、 顔 ( かお )を 赤 ( あか )くして 怒 ( おこ )りました。 しかし、はえのことですから、 怒 ( おこ )ってみるだけで、どうすることもできません。 また、 晩 ( ばん )になると、 蚊 ( か )がやってきて、おじいさんを、ちくちくと 刺 ( さ )しました。 「おれが、 手足 ( てあし )がきかないと 思 ( おも )って、 蚊 ( か )までがばかにする。 」と、おじいさんは、 怒 ( おこ )ったのであります。 はえや、 蚊 ( か )に 対 ( たい )する 腹 ( はら )だたしさが、つい 雇 ( やと )い 人 ( にん )のほうへまわってきましたから、たまりません。 せめて、この 夏 ( なつ )の 間 ( あいだ )なり、 涼 ( すず )しい 山 ( やま )の 温泉 ( おんせん )にでもまいられたらといって、おじいさんにすすめました。 おじいさんは、いい 考 ( かんが )えだといって、 喜 ( よろこ )ぶと 思 ( おも )いのほか、 「 仕事 ( しごと )のいそがしい 体 ( からだ )で、そんなところへゆけるものか? 私 ( わたし )は、あのビルディングの五 階 ( かい )の 事務所 ( じむしょ )で、 夏 ( なつ )を 過 ( す )ごすつもりだ。 」と、 答 ( こた )えました。 「なるほど、それは、いいお 考 ( かんが )えでございます。 」と、 温泉行 ( おんせんゆ )きをすすめた 雇 ( やと )い 人 ( にん )は、 頭 ( あたま )をかいて 下 ( さ )がりました。 おじいさんは、いよいよビルディングへ 移 ( うつ )って、 高 ( たか )い五 階 ( かい )の 室 ( しつ )で 住 ( す )むようになってから、はたして、はえも、 蚊 ( か )もこなければ、 涼 ( すず )しい 風 ( かぜ )がはいって、それはけっこうでありました。 「なぜ、 早 ( はや )くここへこなかったろう。 」と、おじいさんは、 大喜 ( おおよろこ )びでしたが、 雇 ( やと )い 人 ( にん )は、ますます 手足 ( てあし )のごとく 使 ( つか )われて、 上 ( あ )がったり、 下 ( お )りたりするので、ほんとうにやりきれなくなりました。 ちょうど、そのおりのことです。 ビルディングのエレベーターに 故障 ( こしょう )ができて、 止 ( と )まってしまった。 その 修繕 ( しゅうぜん )には、五、六 日間 ( にちかん )かかるそうです。 雇 ( やと )い 人 ( にん )たちは、 頭 ( あたま )を 集 ( あつ )めて、 「こんなときにでも、おじいさんを 困 ( こま )らして、 平常 ( へいじょう )、 手足 ( てあし )のように 働 ( はたら )いている、みんなのありがたみを 知 ( し )らしてやれ。 」と、 相談 ( そうだん )しました。 それで、みんなが、 仕事 ( しごと )を 休 ( やす )んでしまうと、 体 ( からだ )の 自由 ( じゆう )がきかないおじいさんですから、まったく 困 ( こま )ってしまいました。 「 不埒 ( ふらち )のやつどもだ。 よくも、 私 ( わし )をひどいめにあわしたな。 」と、おじいさんは、 怒 ( おこ )りましたけれど、よく 考 ( かんが )えれば、 自分 ( じぶん )が 無理 ( むり )だったので、いつでも、みんなが、 自分 ( じぶん )のどんな 命令 ( めいれい )でもきくものと 思 ( おも )ったからです。 「そうだ。 おれは、もっと 謙遜 ( けんそん )にならなければならない。 そして、 人 ( ひと )を 信 ( しん )じなければならない。 この 世 ( よ )の 中 ( なか )は、おたがいに 助 ( たす )け 合 ( あ )わなければならぬところだ。 」と、 悟 ( さと )りました。 おじいさんは 腹 ( はら )がへると、かごの 中 ( なか )へ、 紙片 ( かみきれ )に 字 ( じ )を 書 ( か )いて、それといっしょに 銭 ( ぜに )をいれて、 細 ( ほそ )ひもで、するすると五 階 ( かい )の 窓 ( まど )から、 下 ( した )の 通 ( とお )りへおろしました。 その 紙片 ( かみきれ )には、 「もし、このお 金 ( かね )で、パンを 買 ( か )って、この 中 ( なか )へいれてくださればしあわせです。 そして、あなたの 手間賃 ( てまちん )もお 引 ( ひ )きください。 」と、 書 ( か )いてありました。 おじいさんは、しばらくして、かごを 引 ( ひ )き 上 ( あ )げると、その 中 ( なか )には、できたてのやわらかなパンがはいっていました。 そして 釣 ( つ )り 銭 ( せん )も、ちゃんとはいっていたのです。 赤々 ( あかあか )とした、 夏 ( なつ )の 太陽 ( たいよう )は、 高 ( たか )いビルディングと、 人 ( ひと )の 歩 ( あゆ )む 白 ( しろ )い 路 ( みち )をいきいきと 彩 ( いろど )り、 照 ( て )らしていました。 おじいさんは、 正 ( ただ )しい 道 ( みち )を 悟 ( さと )ったばかりに、それからは、 雇 ( やと )い 人 ( にん )にも 尊敬 ( そんけい )され、ひとりぽっちでさびしくなく、 体 ( からだ )がきかなくても、 何不自由 ( なにふじゆう )なく、 暮 ( く )らすことができたのであります。 aozora. 入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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おしいれじいさん|絵本ナビ : 尾崎 玄一郎,尾崎 由紀奈 みんなの声・通販

あいだのおじいさん

詩人、放送 作家、童話作家。 西南学院専門学校英文科中退。 中学生の頃から詩作を始める。 詩だけでなく、放送脚本、エッセイ、批 評など広範囲に活躍。 1953年、茨木のり子と同人詩誌「櫂」創刊。 第一 詩集「はくちょう」を出した後はラジオドラマの分野でも活躍。 さまざまな 職業に従事するが、61年からは執筆に専念する。 ラジオドラマ「ジャンボ アフリカ」で、芸術選奨放送部門文部大臣賞を受賞する。 日本現代詩人会、 日本ペン倶楽部、日本放送作家協会会員。 詩集「川崎洋詩集」「しかられた神様」 童話「ぼうしをかぶったオニの子」「ふたごぞうニニとトト」「3匹の 子ぶた」「イソップ童話」「もうおそい愛の話」 教材分析 「わにのおじいさんのたから物」は、昭和54年に、あかね書房より出 版された童話集「ぼうしをかぶったオニの子」(あかね創作どうわ6)にお さめられた作品です。 原作は、頭に突き出た小さなツノをぼうしで隠してい るオニの子が、さまざまな出来事に出会う物語です。 なかでも、「わにのおじいさんのたから物」は、「宝物」とは一般的に は物質欲や金銭欲を満足させるものと理解されているが、つい見逃してしま いがちな精神的な「宝物」の存在ががあることに気づかせてくれる物語で す。 「宝物」とは、金・銀・財宝・貴金属などの高価なものと考えるのが一 般的な常識です。 三年生児童はなおのこと、そうした認識が一般的でしょ う。 子ども達は桃太郎の鬼が島退治で鬼から宝物を手に入れる昔話などを思 い出すことでしょう。 ところが、この作品では、主人公であるおにの子は他 人に親切で、とても思いやりがあって、礼儀正しい行動をする子どもです。 そして、美しい夕焼けの世界を「宝物」と考え、それを素直に受け入れま す。 読者は、ここで予想を超えた意外な世界へと招き入れられます。 金銭欲 や物質欲を満足させる高価・高貴な財物が「宝物」という一般的な常識を覆 させられることになります。 わにのおじいさんは、多くの困難に出会いながらも宝物を他人に奪われ ないために必死で守ってきました。 読者は、わにのおじいさんの宝物とは何 だろうか、どんな財宝なんだろうか、こうした疑問や興味をもちながら物語 を読みすすめていくことになります。 物語の最後までそれを引きずりながら 読みすすめていくことになります。 読者は、この物語の最後で、「宝物」と は宝石や貴金属や高額な貨幣などではなく、美しい夕焼けが「宝物」だっ た、「宝物」といえるのだ、というどんでんがえしの考えに出会います。 読者は、この物語を読むことによって、ほんとうの「宝物」とは何か、 人間にとって「宝物」とは何か、人間にとっていちばん大切なものとは何 か、美しい・誠実な生き方とは何か、ということについて改めて考えさせら れるきっかけを与えられることになります。 題名は「わにのおじいさんのたから物」です。 本文の読解指導に入る前 の、事前の題名よみで、子供達に「たから物」とは、何? と問いかけ、一 般的な理解の「宝物」の概念について十分に話し合っておくことが必要で しょう。 この物語の地の文は、おにの子の三人称限定の視点で描写されていま す。 読み手は、おにの子の気持ちや目によりそってナレーション部分(地の 文)を読み進めていくことになります。 自分とおにの子を重ね合わせなが ら、おにの子と共に行動し、この物語世界を準体験していくことになりま す。 自己中心的な物の見方がまだ残っている三年生ではあるが、相手を思い やる心優しい礼儀正しいおにの子に共感しながら、おにの子の行動を読みす すめていくことになります。 おにの子の言動や人柄に共感しつつ、子供達の中にある徳性や倫理感、 優しさや美しいもへの憧れ、そうしたものに対する感動する心・感性が育っ てくれたらうれしい。 美しい夕焼けを見て「これが宝物なのだ」とうなずくおにの子に対する 感想を話し合い、ひとり一人の児童が持っている宝物についてに一般的な認 識を組み換え、いっそう広げ深めるようにしていきたいものです。 ほんとう の宝物とは何なのかをひとり一人の児童に考えさせ、「宝物」=「高価 な財物・金銭」でないことに気づかせ、大自然や芸術品などのもつ、精神的 な美しさ、それらの審美性にも関心の目を向けさせてくれたらありがたい。 音声表現のしかた この物語は、三年生の教科書10ページにわたる長い文章です。 物語の 全文をすべて、ていねいに音読練習する時間的余裕はないでしょう。 音読練 習に適する文章個所を選択して、その部分を集中して音声表現することにし ます。 こうした指導で場面の様子や人物の気持ちを音声で表現する練習をし ていくことにします。 下記に、三年生の音読実態から考えて、音読表現に適する文章部分を幾 つか抜き出してみました。 「わにのおじいさん。 」 「わにのおばあさん。 」 上の二つの会話文は、おにの子が、わにのおじいさんのすぐ傍にいて、わ にの顔をのぞきこみながら、「呼びかけている。 問いかけている、尋ねてい る」会話文です。 そのような音調でこの会話文を音声表現しなければなりま せん。 後半に書いてある「おばあさん。 」個所は、「おじいさんなの?」「そ れとも」「おばあさんなの?」「どっちなの?」という話し手の表現意図が 濃厚にある会話文ですから、そうした表現意図を頭において表現よみしなけ ればならないでしょう。 「おばあさん」を強めに、確認の意図・思いを強く 押し出して音声表現します。 「おじいーさん?」「おばあーさん?」のように長く伸ばして、文末がし りあがりの上がっていく音調の呼びかけ調になるのも一つの方法でしょう。 「朝だったのが昼になり、やがて夕方近くなって、わにの体は、半分ほ ど、ほおの木の葉っぱでうまりました。 」 上段の地の文は、朝が昼になり、そして夕方近くなった、という時間の 経過が一文の中に一挙に押し込められて書かれています。 この時間系列の流れが音声の表現に現 れ出るように音読すべきでしょう。 たとえばの例で、音声表現のしかたを書いてみます。 「朝だったのが(間)昼になり(間)やがて夕方近くなって(間)わにの 体は、半分ほど(軽い間)ほおの木の葉っぱでうまりました。 」のように音 声表現するのも一つの方法です。 (間)は、かなりたっぷりと開けてよいで しょう。 下段の地の文は、時間の経過、つまり、おにの子の行動の順序・行動の 経過が音声表現にのるように音読することがとても重要です。 中止法の連続 で、おにの子の行動の順序が一文の中に一気に、ひとまとめに押し込まれて 書き表されています。 一つ一つの行動場面が時間の経過にそって、その順番が分かるように音 声表現することが大切です。 そうすることで宝探しの道のりがどれだけ長 く、いろいろな場所を通って、難儀な道のりであり、どんなに辛いもので あったかが分かります。 この一文を、一息に、一気に、ずらずらと淡々と読み進めていっては、 おにの子の行動の順序も、どんなところを通ったかの道のり、どんなに難儀 だったか、そうした事柄が消し飛んでしまう音声表現になってしまいます。 たとえばの例で、音声表現のしかたを書いてみます。 」のように音声 表現するのも一つの方法としてあります。 間は、できるだけたっぷりと開け ます。 (間)と(間)のあいだの語句(文字部分)は、ひとつながりに、た たみ掛け追い込むような、やや速い調子で音声表現するのもよいでしょう。 または、「とうげ」の「と」を、「「けものみち」の「け」を、「つり 橋」の「つ」を、「谷川」の「た」を、「岩あな」の「い」を、これらを強 い・高い声の出だしにして読み出します、読み始めます。 「何度も」と 「やっと」の言葉全体を強調して、強く、高い声にして、ふんばるような気 持ちを込めた音調にして、目立たせて音声表現にします。 こうした方法をと るのもよいでしょう。 自分の席で音読するよ りも、教科書6・7ページにある挿絵のような動作・場面設定をして音声表 現すると、リアルな会話文の音調になると思われます。 わにのおじいさんは 腹ばいになって、おにの子は、わにの頭部に位置して、覗き込んで語りかけ の対話をしています。 二名の児童の目に見える個所に教科書の本文(会話文 個所)を開いて(置いておき)、それを見ながら読む(対話する、語り合 う)ようにさせます。 ワニ「ああ、いい気持ちだ。 ずいぶん何時間も、ねむっていたらしいな。 ゆめを 九つも見たんだから。 「君は、たから物というものを知らないのかい?」 わにのおじいさんは、おどろいて、すっとんきょうな声を出しました。 「おどろいて、すっとんきょうな声を出しました」と但し書きが書いてあ ります。 ですから、「おどろいて、すっとんきょうな声」で、この会話文を 音声表現しなければなりません。 ありありとした、リアルな音調でなくても よいですが、それらしい音調で、できるだけそれに似せた音声表現するほう がよいに決まっています。 「すっとんきょう」の語句内容については、三年生にはなじみがあまりな いでしょう。 前後の文脈の中から「すっとんきょう」の意味内容を推定でき る前後の文章内容でもありません。 はじめから教師が教えてしまって、語句 内容についてあまり時間をかけないほうがよいでしょう。 二つの国語辞書には下記のように書いてありました。 【 大辞林(三省堂)】 素っ頓狂。 「す」は接頭語。 突然、調子のはずれた声を出したり、間の抜けた振る舞いをするさま。 また、その人。 「すっとんきょう」よりも「おどろいて」の気持ちを先に立てて音声表 現するほうが三年生児童には易しいのではないでしょうか。 こうすると「お どろいて」の気持ちを先立てて、それに「すっとんきょう」がかぶさって音 声表現されてくるのではないでしょうか。 幾人かの児童達に「おどろいて、すっとんきょうな声」の音声表現の発 表をさせてみましょう。 挑戦させ、発表させてみましょう。 それら発表の中 には、かなりいいせんの音声表現を発表する児童がいるはずです。 教師はす かさず、その児童をとらえて、その児童に全員の前で再度その音声表現を発 表させ、全児童にその音調を一斉音読で模倣・まねさせます。 くりかえし模 倣・まねを試みさせます。 繰り返しの模倣によって、今までに身についてい なかった、一段と上手な読み声が一人一人の児童達に身体化、肉体化して体 ごとの体験として身につくはずです。 こうして全児童の音読レベルを上げて いきます。 いつまでも下手同士の仲間のままでは、いつまでたっても上手・ 上達になりません。 そこは、切り立つようながけの上の岩場でした。 そこに立った時、おにの子は、目を丸くしました。 口で言えないほど美し い夕やけが、いっぱいにひろがっていたのです。 思わず、おにの子は、ぼうしを取りました。 その立っている足もとに、たから物を入れた箱がうまっているのを、おに の子は知りません。 おにの子は、いつまでも、夕やけを見ていました。 おにの子が、夕やけの美しさに感動して、これが宝物だと判断し、自分 で納得して、そのように受け取っています。 この場面では、おにの子が美しい夕やけに感動して、感嘆の声を上げて います。 おにの子が、胸いっぱいに感動している様子、感嘆の声をあげてい る様子を、音声表現で表したいものです。 たとえばの一例を書いてみましょう。 そこは、切り立つようながけの上の岩場でした。 口で言えないほど美し い夕やけが、いっぱいにひろがっていたのです。 全体をゆっくりと、ぽつりぽつりと読み、一回目より二回目を声高に読 むと、最後の場面の、あとに余韻や余情が残る読み方になります。 一回目の 「いつまでも」より二回目を、二回目より三回目を更に声高に読みすすめて いって強調します。 最後尾の文章「夕やけを見ていました」を、「ゆ・う・や・け・を・み ・・て・・い・・ま・・し・・た」のように、一音一音のあいだをたっぷり と間を開けて読み下していきます。 かつ静かに、しだいに消え入るように、 ゆっくりと読み下していきます。 三年生には、ちょっと難しいかな、チャレンジさせてみましょう。 先生が、下手でもよいから、見本を示して聞かせてみよう。 子ども は先生よりの上手に読んでくれますよ。

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