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芥川龍之介 奉教人の死

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上巻の扉には、 羅甸 ( ラテン )字にて書名を横書し、その下に漢字にて「御出世以来千五百九十六年、慶長二年三月上旬 鏤刻 ( るこく )也」の二行を縦書す。

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その他各巻の巻首に著者不明の序文及 羅甸 ( ラテン )字を加へたる目次あり。

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見られい。

『しめおん』は、 己 ( おの )が仕業もわきまへぬものでござる」と、わななく声で祈つたと申す事ぢや。

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或は又自ら兄とも思うた、あの「いるまん」の「しめおん」でござらうか。 或は「ればのん」山の 檜 ( ひのき )に、 葡萄 ( えび )かづらが 纏 ( まと )ひついて、花咲いたやうであつたとも申さうず。

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その後の「ろおれんぞ」は、「さんた・るちや」の内陣に香炉をかざした昔とは打つて変つて、町はづれの非人小屋に起き伏しする、世にも哀れな 乞食 ( こつじき )であつた。

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あまりの凶事に心も消えて、「しめおん」をはじめ翁まで、居あはせた程の奉教人衆は、皆目の 眩 ( くら )む思ひがござつた。 ましてその前身は、「ぜんちよ」の 輩 ( ともがら )にはゑとりのやうにさげしまるる、天主の御教を奉ずるものぢや。 詮ない事とあきらめられい」と申す。

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由つて「ろおれんぞ」も、朝夕の祈は「さんた・るちや」に在つた昔を忘れず、手くびにかけた「こんたつ」も、青玉の色を変へなかつたと申す事ぢや。 …… その女の一生は、この外に何一つ、知られなんだげに聞き及んだ。

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されば兄弟同様にして居つた「しめおん」の気がかりは、又人一倍ぢや。 「しめおん」は思はず遍身に汗を流いて、空高く「くるす」(十字)を描きながら、己も「御主、助け給へ」と叫んだが、何故かその時心の眼には、 凩 ( こがらし )に揺るる日輪の光を浴びて、「さんた・るちや」の門に立ちきはまつた、美しく悲しげな、「ろおれんぞ」の姿が浮んだと申す。 その空には火の粉が雨のやうに降りかかる。

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これは或年御降誕の祭の夜、その「えけれしや」の戸口に、餓ゑ疲れてうち伏して居つたを、参詣の 奉教人衆 ( ほうけうにんしゆう )が介抱し、それより 伴天連 ( ばてれん )の憐みにて、寺中に養はれる事となつたげでござるが、何故かその身の 素性 ( すじやう )を問へば、 故郷 ( ふるさと )は「はらいそ」(天国)父の名は「でうす」(天主)などと、何時も事もなげな笑に紛らいて、とんとまことは明した事もござない。 「ろおれんぞ」が破門されると間もなく、月も満たず女の子を産み落いたが、さすがにかたくなしい父の翁も、初孫の顔は憎からず思うたのでござらう、娘ともども大切に介抱して、自ら抱きもしかかへもし、時にはもてあそびの人形などもとらせたと申す事でござる。

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さればその「私が悪かつた」と囁いたのも、娘と密通したのが悪かつたと云ふのやら、或は「しめおん」につれなうしたのが悪かつたと云ふのやら、 一円合点 ( いちゑんがてん )の致さうやうがなかつたとの事でござる。 娘が涙ををさめて、申し次いだは、「妾は日頃『ろおれんぞ』様を恋ひ慕うて居つたなれど、御信心の堅固さからあまりにつれなくもてなされる故、つい怨む心も出て、腹の子を『ろおれんぞ』様の種と申し偽り、妾につらかつた口惜しさを思ひ知らさうと致いたのでおぢやる。 。

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そしてこうした 『台風対策』は シーズンスタートしたばかりの離島宮古で 今後の『対策』に 十二分に役に立つ 「備えあれば憂いなし」 、、ですよね。 いや、まさに溢れようずけはひであつたとも申さうか。